ファゴットは実に芸達者な楽器だ。コミカルな演技で笑みを誘うかと思えば(「魔法使いの弟子」などの管弦楽曲を連想するまでもない)、リリック・テナーばりの歌心で聴衆を陶酔させる。性格俳優的なキャラクターも二枚目もこなすという希有の存在。それを操る役者、つまりプレーヤーともなれば、年輪を重ねるほどに身につけていく芸の奥行こそが何よりの魅力となろう。つまりは岡崎耕治の演奏に感じられる“味”の深さの理由だ。 ファゴットという楽器の多面的な顔を集約的に伝えるボザを冒頭に配した後は、心そそる歌声を満載した小品をずらりと並べ、最後はシリアスかつ内容豊かなソナタでしめくくる。ベテランの域に達した名優の独壇場とも評すべき舞台を、ひとつじっくりと堪能あれ。(木幡一誠、ライナーノーツより)

《出演》
岡崎 耕治(ファゴット)、岡崎 悦子(ピアノ)

《曲目》
1. E.ボザ／ブルレスク
2. A.ドヴォルジャーク／わが母の教えたまいし歌 作品55-4
3. F.シューベルト／万霊節のための連祷
4. F.シューベルト／アヴェ・マリア
5. G.F.ヘンデル／ラルゴ (オンブラ・マイ・フ)
6. P.マスカーニ／アヴェ・マリア
7. F.F.ショパン／エチュード 作品10-6
8. F.F.ショパン／エチュード 作品25-7
9. E.エルガー／愛のあいさつ 作品12
10. 無言歌集より 甘い思い出 作品19-1
11. 無言歌集より 瞑想 作品30-1
12. 無言歌集より 詩人の竪琴 作品38-3
13. 無言歌集より 希望 作品38-4
14. 無言歌集より デュエット 作品38-6
15. 無言歌集より 5月のそよ風 作品62-1
16. 無言歌集より 失われた幻影 作品67-2
17. O.モラヴェッツ／ファゴットとピアノのためのソナタ I.Allegro energico
18. O.モラヴェッツ／ファゴットとピアノのためのソナタ II.Adagio molto
19. O.モラヴェッツ／ファゴットとピアノのためのソナタ III.Allegro moderato